takashiskiのブログ

覚書の殴り書き

はじめの1台にしてはいけない3Dプリンタ 「Tronxy X5SA」

書こうとしてから半年近く経過してますが、いい加減頭の中から追い出そうと思って一気に書きなぐりました。

簡単に

  • 利用者が金の代わりに知識とか調整とか改造とかでコストを支払うタイプの安さ
  • 改造用の加工機/3Dプリンタを持ってないとまともに使えるようにできない可能性が高い
  • 逆に改造前提であったり、3Dプリンタの教材ついでに大物造形のプリンタとして使えたらいいなの気持ちならあり
    • 現状はvzbot系の素体でしかない
  • corexy自体が調整難しい

X5SAについて

詳しい説明は省きますが、「これだけ載っててこの価格って安すぎない?」と感じるタイプの3Dプリンタです。

300x300x400mmの造形範囲にオートレベリングセンサ、フィラメント検知に24V電源、静音モータードライバ、タッチパネル液晶つきのcorexyとがん積みです。

経緯

いい加減FDMの3Dプリンタが欲しくなって買いました。

候補は以下でした。

  • prusa i3
  • 上記クローン
  • anycubic i3 mega/mega S/chiron
  • ender 3 pro

どうも私には逆張り癖があるようで、corexyを採用したやつが面白いということを知るなりターゲットはcorexyに移行してしまいました。今でもprusa i3にしていれば、と後悔しています。

corexyは造形可能サイズを比較的大きくしやすく、x/y=300/300程度の面積を5万円以下で確保できてしまいます。 いくらか選択肢があるなかで、よりによってTronxy X5SAの、しかも出たばかりのX5SA-2Eを選択してしまいました。6万円くらいでした。

X5SAの辛いところ

どこもかしこも辛いことばかりなのですが、特に辛いとこは以下の二つです。

  • オートレベリングセンサの取り付けがゆがんでることがある
  • フレームが初期構成だと直角がでない
  • corexyの基本原則を無視している

オートレベリングセンサの取り付けがゆがんでることがある

X5SAには静電容量式のレベリングセンサがヘッドについています。 このセンサにより非接触でベッドの位置を検知し、ベッドにノズルがぶつからないように、またベッドとノズル間の距離の構成の手間を大きく減らせます。

しかし、初稼働からノズルがベッドに激突、そのままベッドを引っかきました。 この時点ではセンサの仕組みなど何も知らなかったので、順に確認していきました。 その結果、「ノズルよりも近い位置でしかセンサが反応していない」ということがわかりました。 センサは主に金属の接近に反応するので、付属のスクレイパーを使ってどの距離で検知するかを調べました。

このヘッドは組み立て済みで届きます。 よく観察してみると、センサが斜めに取り付けられています。これは、センサ取り付けのためのネジ穴のバリが除去されていないことが原因でした。 やすりで徹底的に削ってセンサの取り付け位置を何度も調整してようやく「ベッドにノズルがぶつかる前にセンサで検知できる」かつ「ノズルとベッドの距離を適切にしたときにセンサがベッドにぶつからない」という設定にすることができました。

フレームが初期構成だと直角がでない

X5SAのフレームは、いわゆるアルミフレームを使っています。 このフレーム同士の連結が直角ブラケットではありません。 端に直行するように穴をあけ、フレームの断面の穴にねじをきり、長めのキャップねじで留める構造をしています。

3Dプリンタにとって直角は精度に直結します。というか、corexyの場合は直角が出ていないとまともに動作しません。 あとからアルミフレームの直角を出すには直角ブラケットがよいということを知りました。 追加するときに、全ばらしをせずに直角ブラケットを付けることと元の固定ネジをはずしていくことを並行して繰り返していったら、元のねじ固定では直角が全く出ていないことが判明しました。

直角ブラケットを取り付けるまでは"continous layer shifting"/継続的な層ずれと私が呼称している現象が発生していました。 詳しくは後述しますが、corexyの原則によりフレームの直角が取れていないとヘッドのXY平面上の位置によってベルト長が変化してしまうため特定箇所で脱調を繰り返し、結果として一定間隔で同じ方向に向かって層ごとにずれていく不具合が発生していました。

corexyの基本原則を無視している

色々調べた結果、x5sa及びx5sa proはcorexyで守らねばならない基本事項を守っていません。

以下のサイトがとても詳しかったです。

drmrehorst.blogspot.com

また、以下のサイトがドメインまでとってるのでcorexyを提唱したとこなのかな?と思いました。読まなくてもいいです。

corexy.org

Common Errors in CoreXY buildsという項目を読んでください。冒頭のStacked belt CoreXY layoutの図と見比べて、この項目に貼られている写真の何が問題なのか分かれば1人前です。

corexyではベルトがぐるっとまわって端それぞれヘッドの対角を掴んでいます。このとき、ヘッドから隣のプーリーまで伸びている区間同士はフレーム/ガイドレールに対して平行でなければならなく、またそのプーリーに隣接しているプーリとの間の区間同士もフレーム/ガイドレールに対して平行である必要があります。

こうしなければならない理由は複数のヘッド位置に各区間の長さが変わる==ベルトの長さが変わってしまうからです。これにより過剰なテンションや過剰なゆるみが発生し、脱調の原因になります。

それを踏まえてtronxyのyoutubeチャンネルに上がっている動画などからプーリー位置、ベルトの貼られ方を見ると、明らかに平行ではないです。

www.youtube.com

その他の問題

ケーブルガイドと呼称するのかわかりませんが、キャタピラのような部品の中にケーブルを通してケーブルを遊ばないようにする部品があります。 これはヘッドと一緒に組付け済みで届くのですが、何故か空中に横向きにつけます。 これが重さで落ちてきて、プーリーに引っ掛かってヘッドの移動を阻害することがありました。角度をつけてネジ止めを無理やりしてすらないようにしましたが、明らかにたわんでいる+ねじどめでなんとかなるやつではないので時間経過でまたひっかかるでしょう。

また、このケーブルガイドがこんな無茶な構造になっている原因として、外フレームに直接V-slotを取り付けていることがあります。リニアガイドレールにしろ。 X5SA proでも、リニアガイドと書かれていますが実際は金属製V-Slotという感じです。

V-Slotや、ベッドを支える部品がフレームから飛び出しているせいで、保温/静音化のために板で囲うことがめんどくさくなっています。せっかくのアルミフレームなのに、さらにもう一回り大きく囲わなければなりません。 500x500x600mmくらいのサイズなので、600x600x800mmくらいの箱が必要になってしまいます。

それ以外にも、説明書通りに取り付けるとエクストルーダーの引き込み口とフィラメント切れ検知器の横位置が数cmずれていて引き込み時にも負荷がかかるし、リトラクションやフィラメントを抜くときの逆転動作時にはフィラメント切れ検知器で引っかかってフィラメントが途中で折れるという不具合が起きます。

V-Slotも調整しないと狭すぎたり広すぎたりします。 そもそもすべてのプーリー/ベアリングの動きが悪いです。どれくらい悪いかというと、鳴くところがありました。Z軸の直動ベアリングです。グリスいれたらめちゃくちゃ動きが良くなりました。

そういえば全く使ってないので忘れてましたが、2番目のエクストルーダのフィラメント検知センサの接続が間違ったまま出荷されていることが判明しました。

3回くらい「2番目のエクストルーダーがフィラメント切れってでて使えないんだけどなんか知らない?」って送って毎度「動画送ってくれ」といわれて動画を送ったけど返事はありませんでした。

その後、facebookのコミュニティが活発なことを知って見に行ったら、問い合わせ散々いれたあとにfacebookコミュニティに配線修正方法(コネクタ刺し直す方法)の説明動画があがってました。

他にも今思い出せないだけで問題はまだまだありました。

よかったところ

ベッドの定着

めっちゃ食いつきました。レベリングを適切に実施する限り、激安フィラメントとかしけったフィラメントでもない限り、もじゃもじゃが発生することはなかったです。

静電容量センサによる16点レベリングと、ベッド素材がとてもよいようです。

ベッドに近すぎると半ばベッドを溶かしながら印刷してしまうので、付属のベッドプレートはいい感じを覚えるまでにぼろぼろにする前提で、2枚目のベッドプレートを手に入れるとよいでしょう。どうせ連続して印刷したいときには欲しくなります。アルミ板付きのやつはbanggoodでなら買えそうでした。

ベッドからはがすには例のシールはがしがおすすめです。手をスパッと切ってしまいがちなので軍手も合わせて買いましょう。

marlinはいるようになった

facebookコミュニティをみていたら、いつの間にか初期ボードにmarlinを入れられるようになってました。 初期ボードはモータードライバーが比較的お高い静かなやつがのってたり置き換えるには惜しかったのでとてもうれしいですね。

総評

  • スペックに対して安い3Dプリンタは利用者が調整・改造しないとまともに出力できないということが分かっている人向けです
  • 何らかの方法で試行錯誤の部品を作成できない人は買うべきではありません
  • 買ってすぐぼちぼち以上の品質のものを印刷したいなら、10万円~価格帯のFlashforge Adventurer3やprusa i3 MK3Sを買ってください

X5SA自体は今amazon.co.jpでもprimeで3万円程度まで落ちてきています。 廉価帯の3Dプリンタは大体200~250x200~250程度のベッドサイズしかないので300x300x400mmの造形ができるというのは非常に魅力的に映るでしょう。

すでに3Dプリンタを持っていて、3Dプリンタがどのようなものか分かっていて、ある程度工具や部品の知識、組み立て時の知識がある人であれば激安大型造形プリンタとして使えるかもしれません。 また、とりあえず静電容量センサの癖を試したりcorexy触りたい、という人にもいいかもしれません。

逆に1台目や3Dプリンタを全く触ったことがない人には全くお勧めできません。 組み立てもなかなか癖がいりますし、散々書いた通りそのままではまともに造形ができない可能性すら高いです。 私の場合は、たまたま家にCO2レーザー加工機があったので板を加工してある程度の精度の部品を作ることができたということと、ある程度の工具が揃っていたので何とかなりましたが通常の家庭では絶対無理です。

下手すると「金額合計したらprusa i3 MK3Sと同じくらいの価格になってた」ということが十分あります。